Neurogeneralist

神経内科と一般内科の融合を目標に日々の学びを綴ります。記事の内容に誤りなどがありましたら是非ご指摘ください。また、当ブログの内容は個人のメモとしての要素が強いため、実臨床への反映は個人で吟味の上でお願いします。

CVカテの正しい抜き方とは?

研修医の頃に、中心静脈カテーテルの挿入のやり方はしっかり習うけれども、

意外と中心静脈テーテルの抜き方については習わないのではないかと思います。

でもそれを知らないと、こんな怖いことが起こりますという症例の紹介です。 

症例は…

95歳女性。高度な脱水と低血糖の補正のため、トリプルルーメンの中心静脈テーテルカテーテルを右内頚静脈にとった。超音波ガイド下に行ったため、特に合併症なく、挿入はできた。脱水と低血糖の補正が完了したところで、中心静脈カテーテルを抜去した。(このときは30°頭部挙上していた。)その直後から、高度の低酸素血症と意識障害を呈した。胸部造影CTでは血栓は認めなかったが頭部MRIで散在性の新規脳梗塞があり、心エコーで卵円孔開存しており、他の脳梗塞の原因が除外されたため、空気塞栓と診断した。(Neurology. 2015; 84: e94-6.

 

・頭部MRI(DWI)

f:id:Neurogeneralist:20150713234651p:plain

 Neurology. 2015; 84: e94-6.より引用

 

診断:CVカテ抜去時に起こった空気塞栓

 

正しいCVカテの抜き方は?

恐ろしい症例です。しかもきちんとCVカテの抜き方を知らなければ誰でも遭遇しうるという点も恐ろしいです。

にも関わらず、あまりCVカテの抜き方を習ったことがないような…(筆者だけ?)

ですので、ここでCDカテの抜き方をまとめておきましょう。

・体位はトレンデレンブルグ位(頭部低位)
・吸気終末〜呼気時にカテーテルを抜去する
・抜去後の創部は密閉性のあるドレッシング材で覆う
・抜去後の創部は5分以上圧迫する
 
この4つを徹底しましょう。

直前までCVカテが入っていた穴から空気が入っていくわけですので、胸腔内が陰圧になるような吸気のタイミングでの抜去は避けたいわけですし、穴がふさがる前に手を離してしまったりすると、その隙に吸気のタイミングで空気が入って行くかもしれません。穴の大きさなどにも左右されますができるだけ長めに圧迫するのが安全です。ドレッシング材も何かのきっかけで穴が開いたときに少しでも空気が入りにくいようなものを選びたいですね。体位をトレンデレンブルグ位にする明確な根拠は乏しい(諸説ある)ようですが、空気塞栓の報告は座位や頭部挙上時に抜去したときに多いようなので、それを避けておくというのが一番の理由のようです。


右→左シャントがなければ脳への塞栓は起こらない?

今回の症例は、卵円孔開存があり、ここを通じて動脈系に空気が入り、脳塞栓症を来しました。このような右→左シャントがある場合、特に脳への空気塞栓症は起こりやすいようですが、このような右→左シャントがなくても脳への空気塞栓は起こることがあります。
基本的に肺動脈で空気はトラップされ、体循環や冠動脈には空気が流入しないようになっていますが、負荷される空気の量が多い場合は、このフィルターで全てをトラップできない場合があるのです。ですので、必ずしも右→左シャントがないからと言って空気の静脈系から動脈系への流入を否定できないのです。
 

万が一、空気塞栓が起こってしまったら…

上記の予防策をしてリスクは最小限にするのですが、それでも万が一、空気塞栓が起こってしまったら…。
備えあれば憂いなし。被害を最小限に抑えるために対処法を知っておきましょう。
 
1.これ以上空気が入るのを防ぐ(例:穴が開いたままなら塞ぐ)
2.体位を左側臥位やトレンデレンブルグ位に(根拠は乏しいが悪くはないはず)
3.高流量酸素投与(低酸素血症の治療であると同時に、気泡を小さくする)
4.血圧の正常化
5.高圧酸素療法(動脈系の塞栓で神経学的異常などの臓器障害がある場合は特に)

 

 

以上が中心静脈カテーテル抜去時の空気塞栓の予防法と、万が一起こったときの対処法でした。

少しの工夫で大きな事故を防ぐことができるので、ぜひ心がけるようにしましょう。

 

Take Home Message

・CVカテを抜くときはトレンデレンブルグ位で吸気終末〜呼気時に!

・抜いた後も気を抜くな!圧迫はしっかりと長めに!

・脳塞栓は右→左シャントがある場合が多いが、シャントがなくても起こり得る!

・万が一、空気塞栓が起こったときのために初期対応を覚えておこう!

 

参考文献

  • Neurology. 2015; 84: e94-6.
  • Neurology. 2000; 55: 1063-4.
  • Anesthesiology. 2007; 106: 164-77.
  • UpToDate

 

この記事は過去にアブストラクト・ジャーナルに寄稿した記事に加筆修正したものです。

 

 

>